IR情報

2011年3月期 株主の皆様へ

ゲーム産業の発展には、顕著な傾向があります。 ゲームというアプリケーションは非常に複雑なため、動作する環境に高い能力を要求します。お客様がゲームをプレイするためには、アプリケーションソフトに加えて環境、すなわちハードに対する投資が必要になります。この環境投資が減少するのに比例して、お客様の抵抗感が和らぎ、ゲーム産業は発展してきました(図4)。

■図4: ゲーム産業は、プレイ環境への投資が減るのに比例して発展

ゲーム産業は、プレイ環境への投資が減るのに比例して発展

各種資料より当社作成

デジタルゲームの勃興期には、ゲーム・アプリケーションを動作させることは難しく、一つのゲームにつき一つのハードが必要でした。従って、アーケード業者がゲーム機を購入し、コインオペレーションでお客様から資金回収するというビジネス・モデルが採られました。 次に、任天堂がファミリーコンピュータを発売し、ゲーム機を一般消費者が購入できるレベルにまで引き下げました。家庭用ゲームの誕生です。 以降、家庭用ゲーム市場は、ゲーム・コンソールの性能向上、サードパーティからのゲームソフト供給の増加により、急速に成長していきます。 2000年にプレイステーション2が発売されると、ゲーム・コンソールは専用機でなくなります。同機の価格をゲーム・コンソール+DVDプレイヤーとして考えれば、ゲームをプレイするためだけの環境に対する投資は劇的に下がったことになります。 この数年後、日本では携帯電話でゲームがプレイできるようになりました。汎用機でゲームがプレイできる時代に突入したのです。なお、PCについては、以前よりゲームをプレイすることはできたものの、極めて高い性能が必要だったため事実上ゲーム専用機のような位置づけでしたが、この頃より、一般に普及しているPCでもゲームが楽しめるようになりました。 2007年のiPhone発売を契機に、スマートフォン、タブレットPCの普及が飛躍的に伸びたことで、汎用機でゲームをプレイするというスタイルが完全に定着しました。 なお、2006年時点で、全てのゲーム機がインターネット対応となったことも、その後の産業の展開を考える上で極めて重要なポイントです。 全ての端末でゲームがプレイできるようになったため、もはやハードについては環境投資に関する障壁はなくなり、今後は、ゲーム・アプリケーションが動く土台のソフトの動向に注力する必要があります。 次の展開では、PCに標準実装されているソフト上でゲームが動くかどうかが焦点になってくるでしょう。ブラウザやフラッシュのようなものがこれにあたります。 今後数年は、これらのソフトの能力が飛躍的に向上し、これまでゲームを意識しなかったお客様にまで(既に始まっていますが)幅広くゲームが広がっていくと考えられます。 急激な顧客層の拡大とネットワーク環境の浸透は、ビジネス・モデル及びコンテンツ・デザインの双方に根本的な変質をもたらします。新たな市場に対応するためのイノベーションに成功した業者のみが今後の主役となります。 DVD等の物理的メディアを、店頭という物理的な流通網を通じて販売し、宣伝活動も専らマスメディアで行っていた時代は過ぎ、販売チャネルとしてのソーシャルネットワークをいかに活用するかがポイントになってきています。また、定額での売切販売から、ネットを通じた従量課金(フリーミアムはその一類型)へと収益モデルの変化が既に起こっています。 ビジネス・モデルが変わる以上、コンテンツ・デザインも進化させなくてはなりません。 今後必要とされる価値観は、これまでとは根本的に異なります。 我々も含めて多くのゲーム会社がなかなか飛躍できないでいるのは、市場の成長が鈍化しているためではなく(むしろ大きく成長している)、価値観の変革が徹底できていないためだと考えます。 さらにその次に来るのがクラウドゲーミングです。 ネットワーク環境が整備されることが前提とはなりますが、データの保管、処理は、基本的にはサーバー側で行われることになります。この段階になると、コンテンツ、サービスはサーバー側で動作することになるため、ゲームを超えて様々な融合が起こり、新しいエンタテインメント市場が立ち現われると考えられます。 ここで、よく言われる疑問について触れておきます。すなわち、ブラウザやクラウドもある程度は市場をつかむだろうが、やはり簡単なもののみで、本格的なゲームはコンソール中心であるという疑問です。私は、これら新プラットフォームは全く遜色なく進化を遂げ、コンソール等との棲み分けを必要としなくなると思います。まさに、イノベーションのジレンマの指摘のとおりです。持続的改革は破壊的イノベーションに凌駕されるが、持続的改革で成果をあげている者には理解できないか、実行できないというジレンマが、綺麗にゲーム産業にも当てはまると考えます(図5)。むしろ、10年後であれば、ハイエンドなもの程クラウドになるのではないかとすら考えております。

■図5: イノベーションのジレンマ

スクウェア・エニックス・グループ拠点


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