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2013年3月期 株主の皆様へ

さて、ここでデジタルエンタテインメント事業について述べさせていただきます。デジタルエンタテインメント事業は、HDゲーム、MMO、ソーシャルゲーム等の事業に大きく区分けをして管理をしておりますが、当年度は、HDゲーム事業が非常に厳しい結果に終わった一方、MMO事業は「ドラゴンクエストX 目覚めし五つの種族 オンライン」が2012年8月にサービスインし、堅調に運営を行っており、もうひとつの大きな柱である「ファイナルファンタジーXIV:新生エオルゼア」も2013年8月にサービスインするべく順調に開発を進めております。また、ソーシャルゲーム等は、既存タイトルが引き続き収益に貢献する他、2012年4月にサービスを開始して国内でヒットしたソーシャルゲーム「拡散性ミリオンアーサー」が、同年12月よりサービスを開始した韓国でもヒットするなど、新規タイトルも順調に伸長しております。これらにより、売上高は226億86百万円と前年度より大幅に増収増益を達成し、大きな成長分野としてさらなる伸長を期待しております。

HDゲーム事業において、当社は当年度、欧米中心に3つの大型タイトルを投入いたしました。国内市場はニンテンドー3DS向けの「ドラゴンクエストVII エデンの戦士たち」等を投入し堅調な動きを見せましたが、欧米中心に投入した大型タイトル、「スリーピングドッグス 香港秘密警察」「ヒットマン アブソリューション」「トゥームレイダー」は計画に届かず、非常に厳しい結果に終わりました。これらのタイトルは、いわゆる家庭用ゲーム専用機に向けて開発をしていたもので、多くのゲームメディア等から高い評価をいただき、ゲーム開発面においては相応の成果を達成したものと評価しております。一方で、販売面においては、他社の競合大型タイトルの投入が相次ぐなか競争が激化し、価格政策面で非常に苦戦を強いられました。小売店向けへの値引費用や価格維持費用、また販売促進協力費用が大きくかさみ、出荷本数は稼げても収益がそれに見合わないといった状況となりました。これらは、損益計算書において、返品調整引当金繰入額が39億27百万円と、前年度よりも大きく増加して、利益にマイナスに働いた大きな原因であります。

このような状況は、単に販売体制を再度強化すべきことで対処するような一過性のものではなく、構造的なものであるととらえております。すなわちHDゲーム事業のビジネスモデルに内在する問題が大きく顕在化したのが当年度の結果です。

HDゲーム事業は、ゲームをディスクに記録して販売するモデルを基本としています。PC向けの販売やゲーム発売後の追加コンテンツの販売においてはディスクを介さないダウンロード販売が主流となっておりますが、多くの家庭用ゲーム専用機向けのゲーム販売は、ディスクを介して提供されます。ディスク販売モデルにおいては、売上はディスク販売本数×単価で決まります。出荷本数を増やす、あるいは単価を上げることが売上を最大化することになるわけですが、昨今のゲーム市場におけるタイトル数の増加、競合大型タイトルの増加により、流通へのゲーム供給が非常に厳しくなってきております。小売店においてもゲームタイトルの選別を強化しており、出荷本数を伸ばすための販売協力金や広告宣伝費用、価格補償費等の価格政策費負担が大きくなっております。その結果、実売価格が大きく低下し、出荷本数は伸びても収益が伸びないという状況をもたらしております。一方でこのビジネスモデルは、ゲーム開発に関しても深刻な影響を与えております。ディスクを介してのゲームの販売は、お客様へのゲーム提供のタイミングが発売の一時点に限定されてしまいます。ゲーム開発中は収益機会がほぼありません。ゲーム開発の現場においては汎用的なゲームエンジンの利用などゲーム開発の効率化に努めてはいるものの、家庭用ゲーム専用機の高性能化に伴い、HDゲームの開発期間は長期化する傾向にあります。財務的にみれば、ゲーム開発投資が長期にわたり累積し回収リスクが高まるということであり、また別の言い方をすれば、投資の回転が悪いということであります。このような結果、出口における実売価格の大幅下落と相まって、非常に厳しい数字になったのが今般の決算でありました。従って、これは一過性の問題ととらえるべきではなく、HDゲーム事業の構造的な問題ととらえるべきと考えております。

これをどう見直すかが我々経営陣に課せられた大きな使命であります。上記の通り、HDゲーム事業の構造問題は、収益モデルの硬直性と、長期大規模開発における投資の回転の悪さです。この二つは相互に大きく関係しています。長期大規模開発における投資の回転を上げるためには、発売前においても収益機会を作ってゆくことが必要です。大規模開発を行うタイトルは、我々のフラグシップタイトルであり、我々の技術のショーケースであります。これらタイトルの開発の旗を降ろすことはありません。そして、これらはまた強力なブランドであるがゆえに、多様なコンテンツ展開の可能性を秘めております。ゲームの発売に至る前においても、様々な形でお客様にコンテンツをお届けするモデルが可能です。そのような開発を行うことにより、収益機会を前倒しし、財務リスクを低減しながら投資の回転を上げてゆく取り組みをこれから推進してゆきます。また、このような取り組みは単に財務的な効果のみで語るべきものではありません。長期にわたり収益機会を持てないことは、すなわち長期にわたりお客様との接点を得ていないということであります。今の時代は、お客様との関わりをいかに高めてゆくかが重要な時代であると認識しております。長期大規模開発のあり方を見直すことは、お客様との関わりあい方を見直すということでもあります。


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