年頭所感
2022年1月1日
株式会社スクウェア・エニックス・ホールディングス
代表取締役社長 松田 洋祐
謹んで新年のご挨拶を申し上げます。
2021年は、メタバースが大きな話題となりました。メタバースとは何かからはじまり、ビジネスとしてどのような可能性があるかの議論が世界中で活発に行われる中、10月にはFacebookが社名を「Meta」に変更するなど、単なるバズワードにとどまらないコンセプトとして定着するとともに「メタバース元年」といわれるほど人々の耳目を集めました。
この流れの背景には、XR技術の進化、クラウドや5Gの普及、ブロックチェーン技術の高度化など、ここ数年来の各分野の技術進化が、メタバースというコンセプトのもとにサービスとして結実しつつあることが大きいと考えています。今年2022年は、いよいよ本格的なビジネスフェーズに移行し、様々なサービスが登場する年になるでしょう。メタバースという抽象的な概念が具体的なプロダクト・サービスとして提供される段階になってくるなかで、我々のビジネスにもより大きなインパクトを与える変化をもたらすのではないか、と期待しています。
また、同じく昨年、瞬く間に人口に膾炙したキーワードとして、NFT(非代替性トークン)があります。ブロックチェーン技術を活用したNFTの登場により、デジタル財の取引に関する流動性が大いに高まった結果、様々なデジタル財が高額で取引され、世界中で話題を呼びました。2021年は「メタバース元年」であるとともに「NFT元年」でもあり、大きな熱狂をもってその裾野を急速に拡大させた年であったと思います。現時点でのNFTによるデジタル財の取引においては、コンテンツそのものの魅力とは無関係な形で、やや投機的色彩を帯びて過熱化している状況も散見されます。こうした状況は当然のことながら好ましい状況とは言えませんが、デジタル財取引が今後幅広く一般の人々にも普及するにつれ、いずれは適正な水準に収斂し、有体物取引と同様に、より馴染みやすいもの、そしてコンテンツ自体の価値がその取引により正確に反映されたものとして浸透していくのではないか、とみています。
こうした事業環境の変化に対し、当社は、昨年5月に発表した中期事業戦略の中で、新規領域への挑戦としてAI、クラウド、ブロックチェーンゲームを重点投資分野と定め、積極的な研究開発、投資を行ってきました。
AI分野においては、従来のゲームAIの枠にとどまらないエンターテインメントAIの開発を目指して、(株)スクウェア・エニックス・AI&アーツ・アルケミー(以下AI&AA)を2020年3月に設立、主として自然言語処理・世界モデル・シミュレーション技術などに重点を置き、研究開発を進めています。その成果は今後我々が世に送り出していくゲームの開発、クオリティ向上に寄与するのみならず、バーチャルアバター等への実装を通じて、広くデジタルエンタテインメントビジネス全般への展開を視野に、様々なコンテンツへの応用、他企業への技術提供を計画しています。
クラウド分野においては、主にコンテンツ流通におけるクラウド技術の活用と、その特性を活かした新しい面白さをお客様に提案するコンテンツ開発の両面から検討を進めています。5Gエリア拡大をはじめとした通信インフラ整備や各種デバイスの高性能化が加速することで、当社が提供するコンテンツがお客様にとってより身近になるとともに、これまでとは全く異なる遊び方、コンタクトポイントが生まれる可能性が広がると考えています。当社が持つコンテンツ、サービスを統一的に提供する手段として、そして、従前からの強みであるコンテンツ開発力を拡張した新しい面白さを生み出す契機として、クラウド技術の活用は非常に有効であり、この分野への必要十分な投資を実施してゆきます。
そして、ブロックチェーンゲームです。今までのゲームの在り方は、シングルプレイゲームであろうとオンラインゲームであろうと、ゲームを提供する側、すなわち我々クリエーターが一つの完成品としてゲームを提供し、それをユーザーがプレイするという一方通行の流れでした。他方、黎明期を脱し、今まさに成長期に突入しつつあるブロックチェーンゲームは、トークンエコノミーを前提とすることで、自律的なゲームの成長を可能とするポテンシャルを秘めています。この自律的なゲームの成長を可能とする最大のドライバーは、ゲームをはじめとしたインタラクティブコンテンツに対する人々の向き合い方・動機の多様化であり、トークンエコノミーの進展はこの流れをさらに加速させるでしょう。最近巷間を賑わしている「Play To Earn」という概念は、まさにこのトレンドの典型例だと思います。こうしたトレンドに対し、マジョリティである「Play To Have Fun」(シンプルにゲームを楽しみたい)という動機を持った人々の中で、一部懸念の声があることも十分理解しています。他方、コミュニティの中には「Play To Contribute」(ゲームをより面白くするために貢献したい)という動機を持った人も常に一定数いる中、今までのゲームの在り方では、個人の善意やボランタリー精神といった不安定なものが、創作活動の拠り所となっていました。これは、従来からあるUGC(User Generated Content)の限界とも無関係ではありません。UGCは、その提供者個人の表現意欲のみを創作の拠り所しているため、創作活動の対価としての明示的なインセンティブが存在しておらず、これがゲームチェンジャーとなるようなビッグコンテンツがUGCから生み出されにくかった理由の一つではないか、と考えています。
しかし、トークンエコノミーの進展により、明示的なインセンティブが提供されることで、不安定性が解消されるだけでなく、自らの創作に対するアップサイドが可視化されることとなり、より多くの人々が創作活動に携わり、没頭することで、一層ゲームが面白く成長する可能性が広がると思います。当然その果実は、純粋にゲームを楽しみたいと考える多くの人々にも新しいゲーム体験という形で還元されることでしょう。「Play To Have Fun」から「Play To Earn」さらには「Play To Contribute」まで、様々な動機をもったユーザーがゲームに関わり相互に関連付けられる、それを可能とするものがブロックチェーン技術に基盤を置くトークンなのです。そしてトークンエコノミーをゲームデザインとして成立させることで、自律的なゲームの成長を実現してゆく、このエコシステムこそが私が分散型ゲームとよぶ所以であり、今後のゲームの在り方の潮流の一つになってゆくものと期待しています。完成品としてのゲームを通じたゲームプレイヤーとゲーム提供者のワンウェイの関係、これを分散型との対比で中央集権型ゲームと呼ぶとするならば、中央集権型ゲームに加え、当社のポートフォリオに分散型ゲームを取り込んでゆくこと、これが今年以降の大きな戦略的テーマです。ブロックチェーンゲームを実現する基礎技術、要素技術は既にそこにあります。暗号資産にかかる社会的リテラシーも数年前と比して格段に深まり、受容度も向上しています。今後もこうした社会動向を注視するとともに、ゲームに関わる様々な動機を持った人々の声にしっかり耳を傾けながら、将来的な自社トークン発行も見据え、事業展開を本格化させてゆきます。
Withコロナを見据えた新しい生活様式の中で、これまで述べてきたような新しいテクノロジー・コンセプトやそれらがもたらす事業環境の変化は、当社の事業基盤であるデジタルエンタテインメント事業によって人々の生活をより豊かなものとする機会を数多く提供してくれるものと思います。それは同時に、当社の事業を更に飛躍させる萌芽が日々うまれていることを意味しています。私たちは、コンテンツの創造、開発、提供に引き続きコミットし、新しい面白さを提供することで、社会と人々の幸福に貢献して参ります。
本年もよろしくお願い申し上げます。